前十字靭帯再建手術後のスポーツ復帰をより安全に

膝の安定に重要な役割を果たす前十字靭帯 (Anterior Cruciate Ligament: ACL)のケガはスポーツで最も頻繁に起きる一つであります。

 

アメリカでの年間の前十字靭帯損傷の発生率はかなり高く、その内前十字靭帯再建手術 (ACL Reconstrcution)を受ける患者さんはアメリカだけで20万〜35万件にのぼるといわれています。(Griffin et al)

 

医療コストなどを考えると年間で実に何十億という単位の医療費がACLのケガに費やされているのです。

 

医療コスト削減はもちろん、このエピデミック的な状況を打開すべくACLに関連する研究はこれまでにも数多くおこなわれてきました。

特に予防に関連する研究は相当なもので、どのようにACL損傷を防ぐかというトピックは依然として研究者、臨床に携わる人たちのホットなトピックであります。

 

もちろん予防できるに越したことは間違いないですが、スポーツ(特にコンタクトスポーツ)をおこなう以上、残念ながらある程度のリスクはつきものです。

 

この観点から予防の他に、

 

手術後から競技復帰までをいかに安全に遂行するか、

 

ということにも着目が置かれています。

 

しかし予防に関連する研究もそうですが、この手の研究もかなり難しいというのが現状であります、、、というのも、完璧な方法など存在しないからです。

 

現に、前十字靭帯再建手術(ACLR)の成功率はかなり高いのですが、実際に競技復帰までを考慮すると50ー60%まで落ち込んでしまいます。またデータによると競技復帰後に2年以内に再受傷する確率はおよそ50%まで登ると言われており、依然として復帰後の再受傷率が高いということが見て取れます。(Kvist et al)

 

このことからもより安全に競技復帰をおこなうためには、推奨された基準(Criteria)に沿って競技復帰判断をおこなうことが重要となってきます。

 

 

それでは今回は色々な文献を参考にして、現段階で推奨されている競技復帰の基準をみていきたいと思います。

 

まず前十字靭帯の復帰を考える際、大きく分けて3つのカテゴリーに分類することができます。

  1. Time-Based Criteria
  2. Strength-Based Criteria
  3. Performance Based Criteria

 

 

Time-Based Criteria

 

まずTime-based Criteria から説明いたしましょう。

 

このTime-Based というものは、手術後からどれだけの日数が立っているかを競技復帰の目安とする時間を参考にする考え方です。

 

一般的に、前十字靭帯再建手術から競技復帰までは6−9ヶ月の期間が必要とされています。この6−9ヶ月という期間は研究結果に基づいており、6ヶ月以内で競技復帰した選手は高い確率で再受傷する可能性があるといわれており、再建手術後は最低でも6ヶ月以上の期間を空けることが推奨されています。

 

また、6ヶ月という数字はあくまで最低ラインであって、6ヶ月を経た後で競技復帰を1ヶ月遅らせるごとに再受傷率が20%づつ減らすことができると言われています。(Grindem et al)

 

ただ9ヶ月を越えるとその先はあまり大きな差がないみたいなので、9ヶ月を仮のマックスとし、そこを目標にリハビリをおこなうのが良いのではないでしょうか。

 

 

Strength-Based Criteria

 

次にStrength-Based Criteriaについて説明いたします。

 

このStrength-Based Criteriaとは筋力テストの数値を参考にしてその数値を競技復帰の基準とする方法です。

よく筋力テストで使われるのはアイソキネティック測定で、バイオデックスなどの高価なマシンを使用して測定をおこないます。この際に注目すべき数値としては大腿四頭筋とハムストリングの筋力値(Peak Torque, Total Work)、またハムストリングと大腿四頭筋の筋比率の値(H/Q ratio)がもちいられています。

 

 

Performance-Based Criteria

ラストのPerformance-Based Criteriaというのは、ジャンプ、ホップ、ランニングなどのより競技に必要となる動きのパフォーマンスを測定する方法です。ACL復帰によく用意られるテストとしては、ホップテストがよく用いられています。

ホップテストでは、左右でどれくらい跳躍した距離に差があるかを参考にします。だいたいどの文献でもこの数値が85%〜90%以上が合格ラインに設定されているようです。

また近年では、Y-balance TestというStar Excursionバランステスト をモデルにしたテストが一般的になってきました。このY-balance Testでは、筋力、バランス、柔軟性、そしてモーターコントロールなどありとあらゆる身体能力を駆使する必要があるので、体の機能的な部分を効果的に測定できるという利点があります。

 

3つの数値はもちろん重要な復帰基準となりますが、実はもう一つ考慮しないといけない重要な要素があります。実はもしかしてこれが一番競技復帰を判断する上で最も重要な要素かもしれません。

 

 

その他の要素

それは、Psychological factor(心理的要素)であり、競技復帰に向けて体だけでなく心の準備がしっかりできているかを確認しなければなりません。

 

ある研究によると、心理的に不安を抱えた選手は精神的に安定した選手に比べ、競技復帰が遅れるという結果が出ています。(Ardena et al)

 

よくケガをした選手は、”再びケガをするのではないか”という不安を抱える傾向あります。これはどのレベルのアスリートにも共通するもので、このようなKinesiophobia(運動恐怖症)をはじめとした心理的不安を持つ選手は、本来のパフォーマンスを発揮することが困難となるだけではなく、競技復帰後に再びケガを起こす可能性を高めてしまいます。

 

やはりリハビリの段階から、心理的アプローチをおこなうことがとても大切となります。

 

 

結論

さて、このような競技復帰の判断材料となる3つ+心理的アプローチに触れてきましたが、これを全て網羅すれば完璧に前十字靭帯損傷の再発を防止でき、自分の思い描いたパフォーマンスレベルまで達することができるのでしょうか?

 

残念ながら、全てを駆使しても完璧というものは存在しません。それがわかっていれば年間で何十万ものACLのケガは起こらないでしょうし、再受傷率ももっと低くなってくるはずです。

 

とは言っても、このような明確な基準がなくては年間で何十万件もおこるケガを減らすことはできませんし、再受傷率も高くなる一方です。

 

また研究でもわかっているように、このような基準があるおかげで再受傷のリスクが劇的に下げることができるのも事実です。

 

やはりリハビリにはどうしても守らなければいけないルールがあり、それは時間であったり、復帰にGoサインを出す基準をクリアしているかであったりします。

 

例えば、手術後1ヶ月後にプレーしなさいといわれてできるでしょうか?1ヶ月ならまだ歩行もままならないかもしれません。

 

また、ある程度日数が経ったと過程しましょう。にも関わらず相変わらず筋力が健常脚と比べて半分以下、ランニングではびっこを引いているような走り方で競技復帰できるでしょうか。おそらく無理だと思います。

 

ここでは究極の例をあげましたが、まずは細胞が治癒にかかる時間を最優先に考える必要があり、それに合わせて競技復帰に向けたプランを考えていくことが重要となるのではないでしょうか。

 

ということからも、やはり6−9ヶ月という期間は競技復帰までに必要な期間であり、まずはそのスパンを目安にしてリハビリテーション、コンディショニングを考えていくことが必要となるでしょう。そして、いざ復帰する際には、果たして競技復帰に達する基準を満たしているか、心理的な準備はできているかを確認することが重要となってきます。

 

 

 

一般的に見れば6−9ヶ月という期間は非常に長い期間かもしれませんが、この期間では今一度カラダ、心、パフォーマンスなど色々な側面を見直すいい機会かもしれませんね。

 

今回もご精読ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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