年齢と共に衰えていくのは身体機能の低下だけでなく、”体の痛み”も年齢と共に大きな問題となってきます。
『歳のせいか段々と体の節々が痛むようになってきた….』
『運動したくても体が痛い』
このような悩みを抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
特に、年齢が上がるにつれ関節の節々に痛みが出てくるようになってきます。
この原因としては、年齢が上がるにつれ関節構造自体に変化が現れてくるためなんです。
そしてこの関節構造の変化でおこる関節の炎症を医学用語でArthoritis :関節炎と呼びます。
実はArthoritisには色々な種類があり、例えばよく私たちが耳にするリウマチもArthoritis の一種になります。
そのArthoritis の中でも最も頻繁に発症し、関節の痛みを引き起す原因となるのが今回のテーマ、Osteoarthirits(OA)なんです。
今回は膝の痛みで特に年齢と共にリスクが上がる膝の変型関節症(英語でKnee Osteoarthritis:略してKnee OAとも呼ぶ)について、一体どのような病態なのか?またトリートメント方法について、解説していきたいと思います。
目次
①膝の変型症とは
②症状
③原因
④対処法
膝の変型症とは
みなさん、膝は3つの骨(大腿骨・脛骨・種子骨)で構成されているということをご存知でしょうか。

この3つの骨が合わさることで膝には2つの関節が構成されます。
私たち医療従事者が主に膝の関節と聞くと、大腿骨と脛骨で構成されている脛大腿関節(Tibiofemoral Joint)と膝蓋骨と大腿骨で構成されている膝蓋大腿関節(Patellofemoral Joint)を連想します。

この膝の関節が連動して働くことで、私たちはスムーズに膝を曲げたり伸ばしたりできているのです
ただ、関節がスムーズに働くためにはちょっとしたトリックが隠されています
まず関節を構成する各骨の末端には軟骨(Cartilage)と呼ばれる摩擦を軽減する骨の一部、また関節の間には半月板(Meniscus)と呼ばれるクッションの役割を果たしてくれる組織が存在します。
この軟骨や半月板があるおかげによって膝にかかる負担が膝全体へと分散されていきます。
また関節内には関節液という油のような働きをする潤滑油が存在しています。
皆さんも『自転車のギアの周りが悪くキーキーと音がする』という場合、まずは油をさしてみると思います。この関節液はまさに機械に挿す油のような働きをしてくれているのです。
膝の関節には油のような働きをする関節液、関節にかかる衝撃を分散する半月板、そして関節間の摩擦を軽減している軟骨があるおかげで、私たちは普段は不自由なく膝を動かすことができています。

では、ここからが本題です。
変型関節症(OA)では一体どのようなことが膝に起こっているのでしょうか。
単純に説明すれば、軟骨が磨り減った状態・骨自体が変型した状態など関節構造の変性を一般的にOAと診断します。
症状
症状は個人間で大きく異なることがKnee OAの一つの特徴でもあります。
興味深いことにより、レントゲンをとって初めて『Knee OAだったことが判明する』というケースも多くありますので、OAがあるから必ずしも痛みがあるという訳ではありません
皮肉にも、このレントゲンの発見が中枢神経を痛みに対して敏感にさしてしまうような”Sensitization”を引き起こす可能性もあります。
膝変形症の一般的な症状としては、
①痛み
②腫れ
③硬直感(関節が動かしにくい)
④朝起きた時の関節の硬さ、時間がたつにつれ解消されていく
⑤長時間座った状態・立った状態がきつい
などがあげられます。
原因
OAを引き起こす原因は複数の要因が混ざり合うことで発生します。
ここでは、OAに関係する要因を解説していきます。
①年齢
関節が変性していくにはある程度の年月が必要となってきます。
その点から年齢が高くなると共にOA発症のリスクは高くなっていきます。
長年の蓄積された負荷によって軟骨はだんだん磨り減っていきますが、軟骨には自己再生の能力がほとんどないため、一度磨り減ってしまったものは自然治癒しません。軟骨が減少すると、それだけ骨と骨に生じる摩擦が大きくなるので関節自体がダメージを受けようになります。
また年齢と共に私たちの体では水分量が減少したり、膝を安定させている筋肉の量が減少してくるので、膝の関節にかかる負荷はますます増加していきます。
負荷が増加する一方で、クッションの働きをしてくれていた組織が段々と失われていくので、膝にはさらなるダメージが加わり結果的にOAへと繋がる可能性が高くなります。
OAを発症するほとんどの年齢が60歳以上であることから、やはりOA発症のリスクは年齢に比例して高くなると言えることができます。
②トラウマ
通常OAを持つ世代は60歳以上といいましたが、若い世代でもOAを発症する可能性は十分にあります。
例えば、若い頃に何かしら膝に大きな怪我を経験をされた方は、30代〜40代からでもOAを発症する可能性がかなり高くなるといわれています。
ある研究では、膝の前十字靭帯再建手術を受けたおよそ75%が10−15年以内にOAを発症するというショッキングな報告もあります。そして、この靱帯の怪我に半月板などの損傷が加わっていた場合、OA発症のリスクは大幅に高くなっていきます。
この大きな理由としては、靱帯損傷などの大きな怪我が発生すると膝の関節で炎症が起こります。そしてこの炎症過程に関わる様々な物質が関節にさらなるダメージを与えていく可能性があるからなんです。
例えば、サイトカイン系のインターロイキンなどは炎症段階で増加する物質で細胞の治癒に不可欠な物質ですが、逆に軟骨や骨にダメージを与えていく可能性もあります。
また、靱帯損傷などの大きな怪我が起こると靱帯だけでなく軟骨などにすでにダメージが加わっていることも十分に考えられます。
さらに、靱帯などを損傷すると大きな確率で膝のキネマティック自体(膝がどのように動くか)が変わる可能性があり、これによって怪我の前には負荷がかかっていなかった組織にもストレスが加わるようになり、関節の変性を促進していきます。
この結果から、OAは単なる老化による変性だけではなく、関節環境の異常によってどの世代にでも起こりうるものという認識に変わってきました。
③体重
人体の構造上、膝は体重を直に受け続ける関節です。
例えば、立つ・歩く・階段の昇降などの動作では膝に荷重がかかり続けるのはもちろんですが、
座っている姿勢の時に膝を曲げた状態においても膝の前側には常にストレスがかかっています。
確かに、関節への適度な荷重は骨密度を増加させたり関節内環境に良い影響を与えてくれますが、逆に過度の負荷がかかりすぎると軟骨を摩耗させたり骨の変性を助長させてしまう恐れがあります。
この点から、体重が重い人は軽い人に比べ膝にかかるストレスが大きくなるので、過度の体重は膝にとって最大の天敵となります。
ある研究では、肥満と認定された被験者を対象にレントゲンをとってみた所、そのほとんどの人で関節に変性が認められたとか….
残念ながら、過度の体重はOAを引き起こす大きなリスクであるということは免れない事実です。
対処法
①身体活動
みなさん、朗報です。
実は、エクササイズが膝のOAに最も効果的な療法なんです。
”Motion is Lotion”とよく理学療法士が使う言葉があります。これは『動きによって関節の働きがよくなる』という概念から生まれた言葉で、身体運動から得られる利点を少し洒落れた感じにもじった言葉です。
体を動かすことによって、体内の血流循環がよくなる・筋肉への血流量が増加する・関節が刺激を受けることで関節内環境が改善されるなど、本当にMotion(身体活動)によって体は大きな恩恵を受けます。
大抵、OAが重症化する傾向として、
痛み
↓
体を動かさなくなる
↓
痛みが悪化する
↓
体をますます動かさなくなる
というような負の連鎖に陥る場合が多いです。
②体重コントロール
体重を話に持ち出すのはすごいセンシティブなことですし、自分自身も患者さん(特に女性)に体重を落とせというのは決して簡単に言えることではありません。
ここで大事なのは、自分の体重についてどのように感じているか・近年どのように体重が推移してきたか・体重の変化によって体に何かしらの支障があったのか自己分析をする機会を設けることが大事かな、と個人的には思います。
また、体重の増加が膝にどのように影響するかのリスクを理解することも大切となります。
前述したように、体重の重さは膝にかかる負荷の量に比例しますので、減量することが膝への負担を減らす最も単純な方法とも言えます。
また、体重の急激な増加は関節に負荷が増えるだけでなく、免疫システムの働きを衰えさせたり、様々な部分で体に支障をきたします。
その点からも体重をコントロールすることは健康的な生活を送る意味でかなり大切な要素といえることができるでしょう。
③健康的な生活習慣
体重をコントロールするには規則正しい生活習慣を送ることが不可欠です。
ここでは、健康的なライフスタイルを実現するために大切にしたい項目を羅列しました。
メソッド①:エクササイズ

世の中には五万というほどダイエット方法が氾濫している状況です。
エクササイズ方法も『有酸素をやれー』とか『有酸素は効果ないからウエイトトレーニングをやれ』とか『無酸素のサーキットトレーニングが脂肪の燃焼には効く』など、もう何を参考にしていいやら混乱をを招いてしまっている気がします。
ダイエット(体重コントロール)に一番効果的な方法はエクササイズ・食生活を含めた規則正しい生活を送ることです。
もちろん、エクササイズや食生活はかなり大きな部分を占めますが、現在の自分の体に最も適したトレーニングを行い、食生活に気を使い、快適な睡眠を得ること、ストレスをうまくマネージメントすることが私たちのカラダにとって最も大切になります。
”エクササイズだけ” ”食生活だけ” の時代はもう過ぎ去っていきました。
これからは運動・栄養・睡眠・ストレスマネージメント全て要素を考慮する必要があります。
メソッド②:食生活

『エクササイズをしているから何を食べても飲んでも大丈夫』という考えのみなさん、すごく勿体無いです。
たまにのご褒美に自分が好きなものを食べるのはもちろんOKですし、そのような楽しみがないと長続きしません。
しかし、基本的には規則正しい食事からしっかりとした栄養を取ることがとても大切です。栄養の偏りや過度のダイエットは体に多くの弊害を引き起こします。
『減量のため』といっても最低限の栄養を摂取することは大前提ですし、逆に過度のダイエットにより筋肉量を低下させたり、ホルモンが正常に分泌されなくなりOAを促進させてしまうことも考えられます。
体重のコントロールにはしっかりとした明確なプランをたて、できれば専門家(栄養士さんなど)のアドバイスを取り入れるようにしてください。
メソッド③:継続

”継続は力なり”とはまさにこのこと。継続することが何よりも大切です。
エクササイズに関して言えば、自分の現段階に見合ったメニューを作成することが非常に大切となってきます。
例えば、有酸素と聞いて真っ先に思い浮かぶのはランニングと思いますが、ランニングは比較的短時間で大きなカロリーを燃焼できる運動である一方で膝に一番負担がかかる運動でもあります。
また『脂肪の燃焼にウエイトトレーニングやサーキットトレーニング効果的』といっても、そもそもやり方自体間違えていれば怪我に繋がる元になります。
まず大事なのは、自分のフィットネスレベルを把握すること、そしてそれに見合ったプログラムを作成していくことが何よりも大切です。
そのことを無視して、誰かのトレーニングを真似たり、いきなり強度が高いトレーニングを行ったところで三日坊主となってしまうでしょう。
焦らずとも大丈夫です。トレーニングは持続することが大事で、強度や負荷は段々とフィトネスレベルに合わせて上げていけば良いのです。
④運動活動などの修正
痛みが一向によくならない一つの原因として、膝に負荷がかかり続けることで細胞が治癒できないということが考えられます。
この場合、断続した負荷を軽減しない限り痛みはなかなかよくなりません。
有効な手段として、普段の活動を振り返ってみてどのような活動の時に膝に痛みがでるかを突き止め、一時的に活動制限する、もしそれが難しいようならなるべく膝に負担がかからない活動をするように心がけるなどの工夫することが必要です。
例えば、
- ランニングで痛みがひどくなるならば一時的にランニングを制限して膝にあまり痛みがでないような他の有酸素運動を行う。(ウォーキングでは体重の3倍の負荷が膝にかかるのに対して、バイクではその1/3の負荷ですむ)
- 日常生活で長時間座った状態が続くと痛みがでるならば、こまめに立つ時間を増やす・オフィス内を散歩する、など長時間ストレスがかかり続けるような姿勢を避けてみる
- 移動で長時間歩かなければいけない場合、自転車などを活用して負荷を軽減する
など、工夫次第で膝にかかる負担を減らすことができます。
このように、一時的な運動制限や修正を加えることで細胞に治癒をする時間を与えてあげることが大切となります。
⑤教育
患者さん自身が今どのような状況であるか・どのような対処が必要なのかを認知することはリハビリテーションにおいてすごく大切となってきます。
過度の期待や痛みに対する間違った考えなどを持つと、逆に怪我の治りにネガティブに働いたり、しつこく続くような慢性的な痛みへと繋がる恐れがあります。
患者さん自身が正しい情報を持ち、膝のOAとどのように向き合っていくかが怪我の治りを大きく左右する要素にもなります。
次回のパート2では実際にどのようなエクササイズが膝変形症(Knee OA) に効果的なのか、予防策を交えてお伝えします。
今回の投稿で質問などあればお気軽にコメントください。
今回も最後までありがとうございました。
アオキリョーキ
参考にした文献
-
Osteoarthritis: National Clinical Guideline for Care and Management in Adults: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21290638/
-
Hip and Knee Osteoarthritis Affects Younger People, Too: https://www.jospt.org/doi/pdf/10.2519/jospt.2017.7286
- High Rates of Osteoarthritis Develop After Anterior Cruciate Ligament Surgery: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28982255/
- EULAR recommendations for the non-pharmacological core management of hip and knee osteoarthritis: https://ard.bmj.com/content/72/7/1125
- Aquatic Exercise for the Treatment of Hip and Knee Osteoarthritis: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28444338/
- Osteoarthritis year in review 2019: epidemiology and therapy: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31945457/
- Epidemiology of knee osteoarthritis using Kellgren and Lawrence scale in Indian population
- Epidemiology of knee osteoarthritis in general practice: a registry-based study: https://bmjopen.bmj.com/content/10/1/e031734
- Identifying and Prioritizing Clinical Guideline Recommendations Most Relevant to Physical Therapy Practice for Hip and/or Knee Osteoarthritis: https://www.jospt.org/doi/full/10.2519/jospt.2019.8676
- The Association of Recreational and Competitive Running With Hip and Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-analysis
- Effect of Therapeutic Aquatic Exercise on Symptoms and Function Associated With Lower Limb Osteoarthritis: Systematic Review With Meta-Analysis: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24903110/
