目次
前回のパート1ではインピンジメントと症候群とは何かを大まかに説明いたしました。
今回は実際にインピンジメントを引き起こす原因に迫り、その対処法について触れて行きたいと思います。
原因
インピンジメント症候群がおこる原因は未だにこれといった決め手となるものはなく、様々な要因が合わさって引き起こされるものだと考えられています。
特に、インピンジメント症候群の要因として
- 年齢
- 遺伝
- 繰り返しの腕をあげる動作によるオーバーユーズ
- ローテーターカフの筋力低下・機能不全
- 肩甲骨周囲筋の機能不全
- 姿勢
- 関節可動性の低下
- 関節不安定性
などがあげられています。
①年齢
年齢・遺伝は内的因子なのでどうにもなりません。
例えば、歳を重ねるにつれて筋肉量の低下、筋肉の水分量が失われていき弾力性や耐久性がなくなっていくのはごく自然なことです。
また、年齢が高くなるとすでに腱板に微細な損傷が蓄積している可能性もあり、 何かが起因となって肩が痛み始めるということも考えられます。
インピンメントはどの年代でもおこりうる怪我ですが、年齢と共にそのリスクは高くなっていきます。
②遺伝
筋肉の質、骨の形状などは遺伝によって決められています。
例えば、筋肉が摩耗しやすい、弾力性に乏しい・血流量などが少ない・含水率が低いなどは遺伝によってコードされていて、この筋肉の性質の違いにより怪我のおこりやすさも異なってきます。
また骨の形状もインピンジメントを引き起こしやすい形状というものが存在します。
例えば、肩峰(Acromion)の形状が写真4のようなType III:フック型になっていると、他の形状よりもインピンジメントを引き起こす確率が高くなると言われています。
③繰り返しの腕をあげる動作によるオーバーユーズ
野球で『肩は消耗品』と言われるほど、肩はデリケートな存在です。日常生活・スポーツ・トレーニングの中で使えば使うほど消耗していきます。
先ほどもいったように肩関節のスペースは非常に狭く、腕をあげるごとに肩の組織が衝突し合う”インピンジメント”がおこり、これが度重なるストレスを受け続けた結果、何かのキッカケが発端となり肩の痛みへとつながっていきます。
例えば、体の同じ部位が繰り返し衝撃を受けつづけるとどうなるかを想像してみてください。
最初は痛みもなく平然としていても、段々とあざができてきて最終的に痛みへと変わってくるのではないでしょうか。
つまり、オーバーヘッド動作(腕を肩より上にあげる動作)を繰り返すことによって、微細な衝撃がローテーターカフや他の軟部組織に加わり肩に炎症がおこり、この炎症によって痛みのセンサーが過敏になり、肩の痛みを引き起こしていることが可能性として考えられます。
④ローテーターカフの筋力低下・機能不全
もしかしたらローテーターカフの最も重要な働きといっても過言ではないかもしれませんが、ローテーターカフは私たちの肩関節の安定性を保つ働きをしてくれています。
この働きによって肩が安定した状態で私たちは肩を大きな範囲で動かすことができているのです。
またローテーターカフが”機能的な面で最も重要な筋肉”である理由は、 ローテーターカフと三角筋の関係にあります。
通常、私たちが腕をあげる時、肩関節では上腕骨頭が上方向にシフトしていき最終的に肩峰に衝突を起こすインピンジメント現象が起きてしまいます。
この理由として、肩の大きな筋肉である三角筋のベクトルが上方向にあるため、上腕骨頭自体が三角筋のベクトル方向にシフトしていくからです。しかしローテーターカフがあるおかげにより、この上腕骨頭の上方向のシフトが最小限に抑えらているのです。
これはローテーターカフのベクトルが真横にあるので、上腕骨頭を常に肩関節の中心(関節窩の中心)に保つことができるからであり、腕をあげても上腕骨頭が上方向へシフトするのを防いでくれているのです。

さて、ローテーターカフが肩関節でどのような役割を果たしているのかお分りいただければ、
いかに”ローテーターカフの機能が重要か”
なんとなくご察しいただけたのではないでしょうか。
もしローテーターカフの機能が低下(筋力低下、バランスの破綻)すると、上腕骨頭を関節窩中心に保つことができず、上方向へのシフトが起きてしまいます。
これによって上腕骨頭が肩峰と衝突を起こす確率が高くなるため、インピンジメントがおきてしまいます。
またローテーターカフの筋バランスも非常に大事となります。
ローテーターカフは棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋肉で構成されており、働きによって外旋筋(棘上筋・棘下筋・小円筋)と内旋筋(肩甲下筋)に大きく分けることができます。
ローテーターカフはローテーターというくらいなので肩の回旋(ローテーション)という動作を担う主な筋肉ですが、 腕を内側に回す内旋と、腕を外側に廻す外旋という動作では使う筋肉も違ってきます。

特に外旋をさせる筋肉は肩関節の中で棘上筋・棘下筋・小円筋だけなので、 これらの筋肉はかなり大切となってきます。
外旋と内旋の筋力バランスは大体比率にして60%ー70%が平均となりますが、 この数値が落ちてしまうとその分肩関節の機能も下がってしまいます。
またローテーターカフは腕を挙上させるのに不可欠な筋肉であり、 もしこの外旋・内旋の比率が50%を下回ると私たちは腕を正常にあげることができず、 肩をすくめて無理矢理肩をあげるような仕草が伴ってしまいます。
⑤肩甲骨の機能不全
肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成されている関係から、肩甲骨がどのように動くかによって肩関節は大きな影響を受けます。
ここ数十年で肩甲骨の動きの重要性が認識され、肩甲骨の機能不全によって肩に様々な支障がきたされることが解明されてきました。
肩関節と肩甲骨はフォースカップルといって、それぞれの筋肉が互いに連動することによって正常な働きをおこなうことができています。
例えば、肩をあげるときに肩甲骨は上方回旋(Upward Rotation)といい上方向に回旋していきます。この肩甲骨の上方回旋+肩関節の動きにより、私たちの肩はスムーズに上方向へとあがっていくことができているのです。
もし、この上方回旋が滞ってしまうと肩関節のみ上方向にシフトしてしまうため、肩関節のスペースを保つことができずインピンジメントがおこってしまいます。
この上方回旋を上手く作動させるためには、肩甲骨周囲の筋肉が連動して働くこと、また肩関節の周りの軟部組織が柔軟な状態である必要があります。
肩甲骨に関する多くの研究に携わるDr. Kiblerの研究では、肩甲骨運動に特に重要な筋肉として前鋸筋、僧帽筋をあげています。
どちらの筋肉も肩甲骨をスムーズに上方回旋させるのにとても重要な筋肉であり、この筋肉が協調して働くことが正常な肩甲骨運動には欠かせません。
また、Mihata et al の研究では肩関節の後方組織(後方関節包、棘下筋)がタイト(拘縮)状態であると肩甲骨の上方回旋が制限されるということがわかっています。
つまり、肩甲骨の正常運転には
- 前鋸筋と僧帽筋の機能
- 肩関節後方組織の柔軟性
の2つの要素が欠かせません。
⑥姿勢
みなさんに少し試してほしいことがあるのですが、背中を丸めた状態で腕を出来る限り上にあげてみてください。
おそらく多くの人が腕が挙げにくい、もしくは肩の痛みなどを経験するのではないでしょうか。
では、なぜ背中を丸めたような姿勢、いわゆるKyphotic Posture(猫背)では腕をあげることが困難となるのでしょうか?
実は、いたってシンプルな答えで肩甲骨は背中の胸郭(背骨と肋骨)と繋がっており、 胸郭の可動域が背中を丸めることで制限されてしまい、これによって肩甲骨の動きも制限されてしまうからです。
前述したように肩甲骨と肩関節は連動して動いているので、 肩甲骨の動きが制限されるともちろん肩関節の動きも制限されてしまいます。
普段デスクワークが多いみなさん、今一度どのような姿勢か見直してみてください。
もしかして長時間のデスクワークで自然と背中が丸まった姿勢となっていませんか?
背中が丸まった姿勢では、肩甲骨で重要な僧帽筋・前鋸筋が常に伸ばされた状態ともなり、 最適な筋長が崩れてしまうことで働きに支障をきたす可能性もあります。
また、これらの筋肉が通常に働かないことで肩甲骨が内旋してしまい、これによって肩関節のスペースが狭まってしまいます。
長時間での作業の時こそ、適切な休息をとりながら適切な姿勢で作業をおこなうことを心がけてみてください。
⑦関節可動性の低下
肩関節の可動域の低下は肩関節筋肉の柔軟性の低下や周囲の軟部組織の拘縮(タイトネス)を示唆しており、 肩の障害を引き起こすリスクが高まることがわかっています。
Wilk et al の研究が提唱するTotal Arm Arc のコンセプトでは、肩の内旋と外旋を合わせた可動域が左右で8°以上の差異があると、 様々な肩障害を引き起こしたり、他の体の部位にも支障をきたすということを指摘しています。

また他の研究でも、 肩関節の内旋の可動域が低下すると、インピンジメント症候群を引き起こすリスクが劇的に高まると報告しています。
一つだけ気をつけてほしいのは、この内旋可動域の低下(Gained Internal Rotation Deficit:GIRD)はオーバーヘッドをおこなうスポーツ選手には適応できない場合が多いです。
この理由として、野球・テニス・水泳などの肩をよく使う選手は、 体がスポーツ動作に適応することで肩関節の外旋可動域が広がり、その分内旋可動域が狭くなるということがわかっています。
特に子供の頃から野球(特に投手)をおこなっている選手は、 上腕骨の後捻(retrotorsion)が発達することによって肩の回旋の中心がシフトすることで、外旋の可動域が広がり、その分内旋の可動域が狭まるということがいわれています。
このことから、オーバーヘッドの選手の可動域を見る場合は、GIRDのみでなく総合的な内旋と外旋の可動域を合わせたTotal Arm Arcで評価をする必要があります。
⑧関節不安定性
本来関節を安定させる機能が破綻していると関節自体が不安定となりインピンジメントを引き起こす可能性も高くなります。
この場合、関節の安定性を保つローテーターカフの機能不全、もともと関節の弛緩性が高い、 また一度脱臼などを経験したことで関節の安定機構が破綻している人に多くみられる傾向があります。
トリートメント
インピンジメントがおこるメカニズムやその原因がなんとなく理解できたところで、 それじゃ”どうしたらいいの”というのが一番の興味ではないでしょうか?
ここでは、インピンジメントに対して効果的と推奨されるトリートメント方法をご紹介していきたいと思います。
①ローテーターカフの強化
ローテーターカフの筋力低下・筋バランスの崩れはインピンジメントを起こすリスクを高めてしまいます。
特に、外旋筋である棘上筋・棘下筋・小円筋は肩関節の安定を保つために重要な筋肉となります。
これは外旋筋が内旋筋に比べて弱いこと、また外旋の働きをする筋肉が人体の中でこの棘上筋・棘下筋・小円筋しかないことが理由としてあげられます。
トレーニングジムでベンチプレスやショルダープレスなどをおこなっている光景はよく目にすると思いますが、 おそらく外旋筋をトレーニングしているのをみるのは珍しいのではないでしょうか。
このローテーターカフを強化することは肩の機能向上には欠かすことができません。
②肩甲骨周囲筋の強化
肩甲骨の運動が肩関節と密接に繋がっていると話した様に、 肩甲骨周囲の筋肉を強化することはローテーターカフを鍛えるのと同じくらい大切なことです。
特に、前鋸筋と僧帽筋中部・下部繊維の筋肉は腕をあげた時に肩甲骨が正常な働きをするために欠かせない筋肉であり、 重点的にトレーニングすることを推奨します。
③可動性の向上
肩関節の可動性が低下するとインピンジメントを起こすリスクが高まるということは理解いただけたかと思います。
可動性というのは、肩関節の筋肉の柔軟性と軟部組織の伸張性によって大きな影響を受けます。
特に、この筋肉の柔軟性と軟部組織の伸張性が低下すると、肩の内旋可動域が低下すると言われていますので、最適な可動域を維持することが重要となります。
内旋の可動域を保つのに有効で、普段からでもおこなえることがあります。
それは、ストレッチです。
個人的に可動域の向上に特にオススメしているストレッチ方法ですが、Horizonal Adductionストレッチといって、肩を内側に伸ばしていくストレッチです。
このストレッチでは特に肩後部のローテーターカフや後方関節包にアプローチすることができ、可動域の改善に効果的なストレッチとなっています。

④姿勢の見直し
姿勢が肩関節に与える影響はお分かりいただけたと思います。背中を丸めた姿勢では肩関節のスペースを狭めてしまうだけでなく、筋肉の最適な働きの妨げとなります。
常に背筋を伸ばした姿勢を普段の生活から意識してみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか、今回は肩の痛みで一番多い”インピンジメント症候群”について説明致しました。
大変長い説明となりましたが、今回覚えておいて欲しいポイントとして
①インピンジメント症候群の最大の特徴は肩をあげた時に伴う痛みで、多くの場合手術がなくても治る可能性が高い
②インピンジメント症候群に1番有効なトリートメントはトレーニング!特にローテーターカフと肩甲骨周囲の筋肉が重要!
の2点を覚えておいてくだされば嬉しいです。
今回も最後までお付き合いありがとうございました。
アオキリョーキ
